西濃運輸・佐伯尚治投手の涙とルーズヴェルト・ゲーム
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社会人野球
都市対抗野球は西濃運輸が優勝し、黒獅子旗を手にした。創部55年目、都市対抗に33度出場の末の初優勝だった。9年目のベテラン・佐伯尚治投手は9回2アウトの場面で、すでに目は涙で潤んでいた。
社会人野球は常に危機感
ここ数年、数十年は企業野球にとって冬の時代となっているといっても良い。TBSのドラマで社会人野球チームの存続をかけたドラマ、「ルーズヴェルト・ゲーム」が話題になり、社会人野球チームが肩身の狭い思いをしている事が伝わったのではないかと思う。
かつて社会人チームとして存在していたチームで廃部になった主なチームを挙げてみる。
日産自動車、三菱ふそう川崎、いすゞ自動車、北陸銀行、ヨークベニマル、昭和コンクリート、大昭和製紙、河合楽器、プリンスホテル、シダックス、日本IBM野洲、新日鐵堺、デュプロ、住友金属、NTT四国、NTT北海道、日産自動車九州、NTT九州、川崎製鉄水島など。
西濃運輸だって1980年代に数年間休部をしている。
企業の運動部が企業の与えるもの
西濃運輸硬式野球部のHPを見ると、後援会概況のページに、企業が運動部を持つ目的が書いてある。
「運動部の活動を物心から支援し、各選手の一層の活躍を期待するとともに、健全なスポーツを通じて全国に分散しているグループ全従業員の連帯感と結束力を深め合うこと」
とある。
運動部の選手は毎日トレーニングをしており、活躍の場では会社への恩返しという気持ちが強く一生懸命、全力で戦っている。
しかし企業に勤める社員にその姿を見せられるのは、社会人野球であれば「都市対抗」など年に数回の大会だけ、他の運動部も限りある大会でしかなく、しかも予選大会で敗れその大会に出場できなかったり、出場しても活躍をしなければ、大きく取り上げてもらえず、「運動部は必要なのか」という心の声が聞こえてくる感じがする。
野球部を持つ企業に話を聞いたことがあるが、野球部を維持するのに必要な費用は年間1億円以上ということだった。選手の人件費、グラウンドや練習施設、そして大会や試合への遠征など、かなりの費用がかかる。オリンピックに出場する選手だって遠征費や強化費など多くの費用がかかるだろう。
運動部の選手はそれを知っており、その費用を企業の社員が稼いでいることも知っている。従って、活躍ができないと非常につらい思いをしている。
佐伯投手の涙
9回2アウト目をファーストへスライディング気味に飛び込んで捕った佐伯投手、ケガを心配するナインを手で静止し、投球練習も拒んだ。「あと一つ」という思いで佐伯投手の目は潤んでいた。そして最後の打者を打ち取り、9回を3安打9奪三振で完封という素晴らしい投球で優勝を飾った。
インタビューでは多くの西濃運輸の社員がスタンドにいた。そして、「勝てない時期もあったので・・・」と声を詰まらせて涙を見せた。佐伯投手は9年間という期間、西濃運輸でプレーしている。他の選手よりも会社に世話になっているという思いは強いだろう。そして、スタンドにいる笑顔の西濃運輸社員を見て、ようやく報いることができたという思いが溢れたのだろう。
常にルーズヴェルトゲームを戦っている
企業の運動部の選手は、常に心の中で8-7というぎりぎりのスコアで戦っている。8-0でも1-0でもなく、7点は失っていると感じていると思う。その苦しさの中で、8-7で勝利したときの思いは計り知れない。
スキージャンプの葛西選手などオリンピック選手の笑顔や涙、そして昨日の佐伯投手や西濃運輸ナインの涙がそれを示した。
(記事:Professional-view Baseball 編集部)
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