創価大・田中正義投手を元プロスカウトが評価、高校生の時に獲れなかった理由
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大学野球
大学野球選手権で大きな話題となったのは、創価大学の2年生・田中正義投手だった。球速が出にくいといわれる東京ドームで最速154キロを記録し、大学生では打てないというレベルの高い投球を見せた。この田中正義投手をプロ球団は高校時代に獲ることは不可能だったのだろうか?
田中正義選手の今回のピッチング
田中正義投手は186㎝の長身と89kgのしっかりした体でプロのスカウトも絶賛するような「力が入りすぎていない」フォームから154キロの速球を投げ込んだ。ストレートは常に150キロ以上をマークし、変化球も見せてスタンドをうならせた。投球内容は次の通り
6月10日:初戦の佛教大との試合で9回を4安打9奪三振、無四球で完封
6月11日:亜細亜大、5回2アウトから2番手で登板し、4回1/3を2安打8奪三振で自責点1、無四球
6月13日:九州産業大、6回から登板し4回を6安打2四死球、2奪三振で自責点2
6月14日:東海大、6回から登板し3回をノーヒット1四死球4奪三振、自責点は0だが2失点 敗れる
合計で21回1/3を投げて12安打、四死球2、奪三振23、自責点3という内容だった。数字よりも実際に投げている姿を見ると圧倒される。プロ野球でもこれだけの球を投げる投手は非常に少ない。個人的には北海道日本ハムの大谷翔平投手と比較される投手と感じた。
Youtubeより引用 田中正義 創価大学 全日本大学野球選手権 ①
田中正義選手の球歴
その田中投手、創価高校に入学したときは投手で1年生でエースになるほどの実力があった。夏の大会ではエースとして5回戦まで勝ち上がるも、準々決勝の早稲田実業戦で1回に4失点し3回で降板していた。そしてその後に肩を痛め、外野手に転向する。
外野手でもホームランを量産し打者としても注目されたのだが、3年夏の3回戦に点差の開いた場面で登板し、140キロのストレートを連発してみせた。
創価大学には野手として入学するも、「投手になりたい」と監督に直訴した。そして1年間は投手として練習と体作りを行い、この春2年生で球界をアッと言わせた。
北海道日本ハムの関係者からは「大谷と二人でローテーションに入っていたら凄かった」と、田中投手を獲れなかった事にやや残念なニュアンスを見せている。
元プロスカウト・日野茂氏に評価してもらった
元プロスカウトの日野茂氏に、大学の時の映像と高校時の映像を見てもらい、評価をお願いした。評価のために使った映像を下に示す。
映像1:大学野球選手権の投球の映像(正面):Youtube「創価大・田中投手 最速154キロのピッチング:全日本大学野球選手権」より
映像2:創価高校時代の投球:Youtube「田中正義(創価)ピッチング2」より
まず映像1を見て日野氏は
「トップの位置が上がりすぎていない」
「体の回転で自然に腕が出てくる」
と話し、「腕がフワッとでてくる感じ」と表現した。肩を壊しにくいフォームを重視する日野氏にとって、この表現は理想的なピッチングフォームと言えそうだ。
次に映像2を見てもらうと
「腕を上から無理矢理投げようとしている」
「縦に振ろうと無理をしている」
と評価した。映像2はおそらく高校3年生の時のものだと思われ、肩の怪我が治ったあとの投球と推察されるが、肩に負担のかかるピッチングフォームだったのだといえる。
大学の2年間で腕が自然に出てくるフォームを身につけ、この大会で一気に評価を上げることとなった。
高校時に獲得できなかったのか?
最後に日野氏に「プロのスカウトは田中投手を高校の時に獲得できなかったのか」について質問をすると、
「この投球フォームだと、コントロールや球の質が今より良くなかったのかもしれない。」
と話す。しかしもっとも重要なのは、
「このフォームで、しかも1年生の時に肩を痛めたという情報があったら、獲得は難しかっただろう」
とのことだった。ただし、
「プロスカウトの一人でも”この選手は”と反応し、練習などを毎日にように追いかけて見ていたら、例えば外野での遠投なんかを見て投手としての将来性を見いだせたかもしれない」
と付け加えた。
プロのスカウトに「なぜこの選手を獲得できなかったのか」と質問するのは酷な事である。多くの選手をカバーする中での一人でもあるし、自身は評価しても球団の指名方針によって、追い続ける事はできなかったのかもしれない。
それでも、こうした選手を追いかけるのがスカウトのロマンで、楽しみでもある。
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